酒さ(顔のほてり、乾燥)
Rosacea
1.酒さ(しゅさ)とは

酒さ(しゅさ)とは原因不明の体質的な病気であり、気温の変化や熱がこもること(たとえば日光に長くあたる)、あるいは精神的なストレスにより誘発される顔(特にほほ)の一過性のびまん性紅班が初発症状で、やがて一過性のびまん性紅班は持続性となり、腫脹や毛細血管の拡張を伴ってきます。酒さの紅班に触れると熱感を感じます。さらに持続性紅班内部にニキビに似たぶつぶつ(丘疹、膿疱)が多数できることもあります。酒さは一般の方にはなじみの無い病名と思いますが、実は子供から高齢者まで幅広く多勢の患者さんが存在します。また、大多数の方は症状が軽く,湿疹やアトピー性皮膚炎、あるいはニキビと合併している場合が多いので認知されにくいのです。

2.顔のほてり、乾燥と酒さ

顔がほてるとか、顔が乾燥するといった方の大部分は酒さが原因なのです。顔の乾燥肌と酒さの関係について更に詳しく述べますと、乾燥肌というのは皮膚の保湿成分が足りなくてできると一般に考えられているのですが、顔という部位は保湿と関係ある皮脂の分泌が盛んな部位なので、よほど高齢の方でないと保湿成分が足りなくて乾燥するということは考えにくいのです。特に他の部位は問題なく、顔だけが乾燥するという場合は、保湿が足りないのではなく酒さが関係することが多いのです。何故、酒さがあると乾燥につながるかといえば、顔にできる酒さの紅班は熱を帯びているために、顔の皮膚の水分が蒸発し、皮膚が乾燥するのです。こういった状況では保湿剤を塗るとさらに熱がこもり、さらに顔の乾燥がひどくなるのです。顔が乾燥するので保湿剤の入った化粧品を使うとさらに乾燥がひどくなるということを経験された女性も多いことでしょう。これについては皮膚科医の多くも知らないのです。

3.酒さの治療
私の文章が引用されるようになってきましたので、より正確に書き直しました。
酒さの治療としてはテトラサイクリン系の抗生物質の内服やメトロニダゾールの内服が挙げられますが、いずれもニキビ様のぶつぶつに有効な薬剤であり、びまん性の紅班への効果は劣るとされていました。私は1995年に従来はニキビに効果があるとされてきた漢方薬、十味敗毒湯が酒さのびまん性紅班に著効を示すことを始めて報告しました(1)。現在に至るまでに1000人以上の酒さの患者さんに処方し、大部分の症例(典型的な症例だけではなく湿疹を伴う等の非典型的な症例を多く含んでいます。)で投与後7日以内に、顔のびまん性紅班が著明に改善しました(印象としては90%以上)。ただし、改善した方でも温熱刺激(強い日光を浴びる等)で一時的に顔が赤くなることはよくあります。十味敗毒湯以外の他の漢方薬(白虎加人参湯他)が酒さに効くという報告もあります。ただし、酒さに十味敗毒湯を使って効かない場合に、他の漢方薬を使って著明な効果を認めたことは私自身の経験としてはありません。十味敗毒湯単独では治らない例が多いので桂枝茯苓丸等の漢方薬を併用して治療するといわれている先生がおられますが、私の経験では十味敗毒湯に他の漢方薬を併用して(急速に)治った例はありません。十味敗毒湯単独で治る例が少ないとおっしゃるかたは申しわけないけれど非典型的な酒さをあまり経験していないか、もしくは非典型的な酒さを見落としているんじゃないかと思います。非典型的な酒さの診断はなかなかむづかしいのです。そして、酒さは患者さんの悩みとしては大きいのだと申し上げたいですね。具体的に言いますと、酒さで中西皮膚科を初診された方の初診時の診察時間は10分くらい、他の皮膚科を受診後に(治らなくて)中西皮膚科を受診された方の初診時の診察時間は30分くらいです。患者さんにとって如何に大きな悩みなのかわかっていただけるでしょう。また、酒さはいつまでも続くかというとそうではありません。早い人では数か月で治療が不要になります。ですから、ある薬に治療効果があるというなら治療開始後1月以内に有意な効果が出ないと薬の治療効果としては怪しいと私は思っています。
先ほど、酒さは非典型的なものが多いと書きましたが、十味敗毒湯が典型的な酒さに効かないかというとそうでもありません。ただ、十味敗毒湯が最も良く効くのは湿疹をともなった酒さということは言えると思います。
 ただし、先程書いたように十味敗毒湯は酒さのびまん性紅斑に効き、ぶつぶつ(丘疹、膿疱)にはほとんど効きません。び漫性紅斑のみが強く他の症状を伴っていないものが治り難い傾向にあると思います。 び漫性紅斑にぶつぶつ(丘疹、膿疱)を伴っている場合は比較的治りやすいと思います。ただし、び漫性紅斑と言ってもぶつぶつの周りが赤くなっていて、融合し全体としてび漫性紅斑に見える場合があり、こういう場合はぶつぶつを治すことによりび漫性紅斑も改善します。酒さのび漫性紅斑は漢方薬でしか治りませんが、ぶつぶつは抗生物質(テトラサイクリン系、マクロライド 細菌を抑制し炎症を抑える)の内服、イオウカンフルローション等のニキビダニに効果のある薬剤、ロゼックスゲル(細菌、ニキビダニを抑制し、炎症を抑える)などが効きます。この内、ロゼックスゲルがアメリカではよく使われており、最近、日本でも癌の悪臭を抑えるという目的では保険が通っています。見本を手に入れて7人ほどの患者さんに使ってみましたが1人のみ有効でした。ただし、有効だった1人はぶつぶつだけではなくび漫性紅斑にも有効でした。


4.顔の湿疹や顔のアトピー性皮膚炎と酒さの関係

顔の湿疹や顔のアトピー性皮膚炎の多くは酒さと合併しており、酒さによって顔の湿疹やアトピー性皮膚炎が誘発されるものと私は考えています。誘発されるメカニズムとしては、酒さのびまん性紅班のために、皮膚が熱を帯び皮膚の水分が蒸発して皮膚が乾燥し、湿疹やアトピー性皮膚炎を生じてくるものと私は考えています。ですから、こういった酒さが合併した顔の湿疹や顔のアトピー性皮膚炎を治すには、まず十味敗毒湯の内服により酒さのびまん性紅班を治療する必要があると私は考えています。この件についてははこのホームページのアトピー性皮膚炎の項目を参照してください。

5.酒さと酒さ様皮膚炎について

酒さ様皮膚炎(ステロイド酒さ)という病気は顔に長期間ステロイドを塗り続けると起こってくる副作用とされ、酒さに似た顔のびまん性紅班やニキビ様のぶつぶつ(丘疹、膿疱)といった酒さによく似た症状を示し、ステロイドを塗るのを中止すると、症状の一過性の増悪の後に治るとされています。また、一般に酒さ様皮膚炎は酒さと関係ない独立した病態であるとされています(酒さの素因がある人にステロイドを塗ると酒さ様皮膚炎が起こると言っている人もいます)。私は、酒さ様皮膚炎というのは既に存在する酒さがステロイドの外用によって修飾、増悪したものと考えています。酒さ様皮膚炎は顔にステロイドを塗り続けて起こる単純な副作用ではありません。ステロイドを塗り続けるとステロイド座瘡といって、酒さとは異なり紅班は生じないで,ニキビ様のぶつぶつ(丘疹、膿疱)のみができる副作用が生じるのですが、同じようにステロイドを塗り続けても、どうして酒さ様皮膚炎ができる人とステロイド座瘡ができる人に分かれるのか、酒さ様皮膚炎が顔にステロイドを塗り続けて起こる単純な副作用と考えると説明ができないのです。酒さ様皮膚炎は、酒さにステロイドを塗り続けて酒さが修飾され、増悪して酒さ様皮膚炎になると考える方がはるかに合理的です。先に述べましたように,酒さは軽い症状が多く、湿疹やアトピー性皮膚炎と合併することが多いので、酒さの合併に気づかず、酒さ様皮膚炎(ステロイド酒さ)はステロイド塗布による副作用とされたのでしょう。また最近プロトピック軟膏(免疫抑制剤)を顔に使って酒さ様皮膚炎ができるという報告がなされていますが、これについても酒さがプロトピック軟膏で修飾され悪化したものだと考えれば、容易に説明できるのです。

6.持続性紅斑についての新しい発見
酒さは入浴等の温熱刺激で顔面にび漫性の赤み(紅斑)が一過性に生じるのが初発症状(一過性紅斑)です。その後、一過性紅斑の持続時間が延長して持続性紅斑となります。私は持続性紅斑は一過性紅斑の延長と考えていたのですが、最近、持続性紅斑の一部にイオウカンフルローションが有効な皮疹があることに気づきました。臨床的にイオウカンフルローションが有効な紅斑と無効な紅斑を区別することは困難ですがイオウカンフルローションが効くということは皮脂が多くなっているのか、酒さに関係するといわれるニキビダニが増えているかのどちらかだと思います。下に示した論文の考察では皮脂が増えたからイオウカンフルローションが効果を発揮したのだろうと書いてありますがこの症例は丘疹や膿疱を多数認めており、ニキビダニを調べてはいなかったので断言できませんがニキビダニが関係していたのではないかと今では思っています。しかし、少数ですが丘疹や膿疱を伴わずびまん性紅斑のみを認める症例でイオウカンフルローションが効く例は存在します。効く例ではイオウカンフルローションを塗っても皮膚が荒れてこないというのが特徴で、効く理由は不明ですが皮脂が多くなっているから効くと考えてもおかしくないと思います。

中西孝文 :十味敗毒湯の内服とイオウカンフルローションの外用で著効を示した酒さの1例 医学と薬学 第71巻 第3号 2014 

                     







(1)中西孝文 漢方診療 1,995,14、p30

戻る
戻る